ぽりあねすぶろぐ

ポリアネスと夜ごパン(仮)

ブログタイトルは適当です

石黒正数『それでも町は廻っている』と僕

それ町」と呼ばれる漫画に出会ったのは、はっきりとは覚えていないが、今から約2年ほど前のことだったと思う。

 

その時の僕はまだ大学生で、ミステリーをだらだらと読み、ゲームをだらだらと消化するという、今とあまり変わらない生活を送っていた気がする。

 

大学生になってから、漫画というものをめっきり読まなくなってしまった僕がこの漫画に手を出した理由は、「なんとなく」であった。「なんとなく」名前を知っており、「なんとなく」コメディチックなものが読みたかったから。

 

たしかに、「それ町」はコメディである。しかし、読み進めていくうちにそれだけにはとどまらないことをどんどん感じさせられた。コメディな話と見せかけて実はホラーだったり、後味の悪い話だったり、けっこう本格的にミステリーをやっていたり、かと思えばずっこけギャグに徹していたり、思いもよらぬ仕掛けが隠されていたり。

 

そのような、ひとつのあり方にとらわれないスタイルは1〜16巻で共通なのだが、僕がそれを最も顕著に感じたのは2巻である。というより、2巻を読んだ時点で単行本を買い揃えることを決めたのだ。

 

まず、シリーズ全体の表題作である「それでも町は廻っている(前編・後編)」。これに感銘を受けたのはもちろんだが、この話の裏テーマは「あとがき」に書かれていることを忘れてはならない。

 

(……)歩鳥がいなくても町は営みを続けます。

あえて淡白な表現になっている歩鳥がいない商店街、また天国の役人や案内人、ヨハネ君たちも死んで天国に来たのだという事実を想像で補っていただけると、未熟ゆえに描き切れなかったテーマに一歩近づくのではないかと。(……)

 

それでも町は廻っている」。この漫画は、必ずしも歩鳥を主人公とした物語というだけではない。ここで本当に描かれているものは、「廻り続ける町」なのだろう。その結果として、住人たちもまた廻る。町と人が廻り続ける限り、この漫画のテーマもまた、一点に留まることはない。

 

もう一つ、2巻には感銘を受けた話が「ナイトウォーカー」である。栄養ドリンクで眠れなくなった歩鳥の弟・タケルが、姉とともに生まれて初めて深夜の町を歩くというだけの話だが、小学生目線の表現がとにかく卓越している。

 

0時を日の境目と初めて知ったのはいつのことだったか。たまの深夜の散歩(といっても21時くらいだった気がするが)の時になぜあんなにワクワクしたのか。その反面、明記はされていないが、ある種の罪悪感すら読み取ることができる。

 

漫画の中の「町」が、自分の暮らしている、もしくは暮らした「町」に侵食し、リンクするような感覚。現実と作品の境目が曖昧になるという点においては、アンチミステリ的だと言えなくもないかもしれない。それだけではなく、作者の石黒正数氏は歩鳥と同じで、本当にミステリーが好きなんだとわかるシーンや構成がいくつも存在する。とはいえ、仮にその要素がなくとも、この漫画が名作であることは変わらないと僕は思う。だが、「それ町」の話を一本読むごとに、質の高い本格ミステリー短編を一本読み終えたような感覚を得るのは偶然ではないだろう。

 

その他にも、「それでも〜前後編」の後日談であるちょっとだけほろ苦くも温かいコメディ「パジャマの天使」。2巻の時点では最も異色作といえるかもしれない「穴」(この話のオチはぜひ自身の目で確かめていただきたい)など粒ぞろいで、ガッチリと心を掴まれてしまったのであった。

 

それからゆっくりと時間をかけて、最終巻である16巻を今日、読み終えた。ここで描かれていたのは、紛れもなくひとつの町の日常であった。本当の意味で特別な出来事などどこにもない。それでも、涙が止まらなかったし、それでも町は廻っていたのだ。

 

 

☆おまけ 厳選!個人的ベストエピソード☆

・1巻  第5話『愛の逃避行』

・5巻  第39話『夢現小説』

・6巻  第47話 『ヒーローショー』

・9巻  第68話 『嵐山ジョセフィーヌ様』

・9巻  第71話 『歩く鳥』

・11巻  第84話 『夕闇の町』

・12巻  第95話  『ユキコの剣』

・13巻  第104話  『暗黒卓球少女』

・13巻  第105話  『呪いのビデオ』

・15巻  第117話  『虚』

・16巻  第125話  『紺先輩  スペシャル』

・16巻  第127話  『至福の店  フォーエバー』

・16巻  エピローグ  『…それから』

 

…厳選した割に多すぎるな。

【ちょっぴりネタバレ】竹本健治『トランプ殺人事件』【書評】

ごぶさたです。長文を書く能力が失われつつあり、魔女宅終盤のキキみたいな精神状態なのでライトに。

 

今回読んだのは『トランプ殺人事件』。二回連続竹本健治である。

 

トランプ殺人事件 (講談社文庫)

トランプ殺人事件 (講談社文庫)

 

 


前回『涙香迷宮』に衝撃を受け、真似していろは歌もちまちま作りながら本書を読むという、完全に(にわか)竹本ファンの生活を送っていた。これもその勢いで読んだものである。

大筋は、「密室から消失した人物が、全く別の場所で死体となって発見されたという謎を解く」というもの。『囲碁殺人事件』『将棋殺人事件』に続く「ゲーム三部作」の三作目であると同時に、『将棋殺人事件』、本書『狂い壁 狂い窓』の「狂気三部作」の中堅をなす一冊だという。

当然、『囲碁』『将棋』と同じく智久、典子、須藤の三人がメインで登場している。『涙香迷宮』では高校生だった智久くんも、この時は13歳なので安心だ(?)。

しかし、本作の実質的な主人公は『将棋』でも登場した精神科医・天野不巳彦である。冒頭で謎の注意書き、謎のメモ書き、謎の会話が全くの説明無しに突き付けられるという構成には、彼の存在が大きく関わっている。この部分から読者は「狂気」の一端を、すぐさま感じ取るだろう。そしてその狂気は読み進めるごとに拡大していき、蠱惑的な幻惑世界を体感することになる。

ただ、この作品「狂気」といってもナンセンスや不条理に由来するものではない。あくまで論理的に、合理的に人間の精神を捉えようとすることによって、かえって我々の精神の不合理さ、理解不能性が露わになっていくというものだ。精神病患者が異常なのではなく、我々健常者こそが異常なのではないか……そんな不安定さこそが、この作品に蔓延る「狂気」なのである。

そんな雰囲気だけではなく、本格ミステリーとしても一級品だ。にもかかわらず、個人的には変格よりのテイストを強く感じた。奇書/アンチミステリーとして名を馳せた『匣の中の失落』(こちらは未読、勉強不足である)、そして遊び心満載の傑作本格である『涙香迷宮』の中間に位置する読み味なのかなと思った。特に、暗号が謎の主体となっているあたりは『涙香迷宮』への布石を感じることができるだろう。

中盤に登場するトランプの用語集、そしてゲームの一つであるコントラクト・ブリッジの説明は読むだけでも相当骨が折れた。理解力の無さゆえ、結局ルールもなんとなくしか把握できなかった。しかし、これから読む方のために言っておこう。この作品はコントラクト・ブリッジのルールを完全に理解しなくても十二分に楽しめる。「トランプにこんなゲームがあるのか」と驚きながら、精神医学と反精神病理学に惑わされつつ、端正かつ大胆な本格ミステリーを思い切り楽しむのが正解だろう。

そして、とある作中人物よろしく、この記事にも「切り札」を用意している。この作品の一番美味しい部分については一切触れていないということだ(それがこのブログがミステリー作品を紹介するにあたっての通常スタンスではあるのだが)。そこはぜひ、実際に読んで確かめていただきたいと思う。その前に『囲碁』と『将棋』も。どちらも最高なので。

ところで、僕が一番最初に読んだ竹本作品は、『有栖川有栖綾辻行人のミステリ・ジョッキー』で取り上げられた、『狂い壁 狂い窓』のとある一編だった。何巻だったか、どの作品だったかは思い出せないが…。

『狂い壁』も復刊しているし、『ミステリ・ジョッキー』も非常に好きだったので、そのうち揃えてまた紹介してみたいと思う。

 

 

狂い壁 狂い窓 (講談社文庫)

狂い壁 狂い窓 (講談社文庫)

 

 

綾辻行人と有栖川有栖のミステリ・ジョッキー(1)

綾辻行人と有栖川有栖のミステリ・ジョッキー(1)

 

 


次に読むのは島田荘司暗闇坂の人喰いの木』か、『名探偵傑作短編集 法月綸太郎編』か。



【ちょっぴりネタバレ】竹本健治『涙香迷宮』【書評】

※注意

この記事には「作品の『前半』までのネタバレ」が含まれています。

 

 

今回は本格ミステリーの話である。

竹本健治『涙香迷宮』を読了したのでその書評だ。

 

涙香迷宮 (講談社文庫)

涙香迷宮 (講談社文庫)

 

  

書評というと堅苦しく聞こえるが、「書を評すると書いて書評だ!文句あっか!」という感じの精神で、好き勝手に書いていきたいと思う。

 

〇前書き

また、本格ミステリーを評価する際に問題となるのが"ネタバレ"である。作品の肝となるトリックや真相などに言及する場合には、タイトルにて【ネタバレ】と断ることが必要となる。そうすることで作品について深い話はできるが、未読のひとは基本的にそのブログを見ることはできない。

 

しかし、本ブログの筆者はミステリーの話をするどころか、面白いと思った本をまともに勧めることのできる友達もいないかわいそうな奴なので、ネットの海に漂う、まだ見ぬ「ともだち」に向けた文章を書くことにする。よって、肝心な部分のネタバレは避けることにした。

 

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ネットを漂う「ともだち」のイメージ。優しそうですね


しかし、僕個人はあらすじに書いてあるような基本的なことすらも一つのネタバレとして扱う人間である。文庫裏のあらすじや目次なども見ない。その方が作品の「すべて」を楽しめるからだ。そんな人のためにタイトルには【ちょっぴりネタバレ】と付し、具体的に作品のどの範囲のネタバレが含まれているのかを明記することとした。

主に未読の人に紹介する文章だが、既に読んだ人にも見てもらいたい。そしてあわよくば友達になっていただきたい。

 

〇買いました

さて、本題である。

竹本健治の『涙香迷宮』。2017年のミステリー界において、これほど話題となった作品もないだろう。かくいう僕もずっとチェックはしていたのだが、ハードカバーには金銭的に手が回らず……文庫化の報せを聞いて小躍りしたものである。

 

それから半年ほど経ち、例の『黒死館』ショックのあとしばらく読書への熱意を失っていた僕は、ちょうど読むものがなかった東京旅行中、渋谷の書店にて運命的な出会いを果たしたのだ。新刊見て、ノータイムで買ったのは実に久し振りだった。

 

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囲碁界では有名な老舗旅館で発生した怪死事件。IQ208の天才囲碁棋士・牧場智久は謎を追いかけるうちに明治の傑物・黒岩涙香が愛し、朽ち果て廃墟になった茨城県の山荘に辿りつく。そこに残された最高難度の暗合=日本語の技巧と遊戯性をとことん極めた「いろは歌」48首は天才から天才への挑戦状だった。

講談社文庫版『涙香迷宮』より)

 

僕としては、竹本作品は『囲碁殺人事件』 『将棋殺人事件』に続き3冊目。どちらもゲーム趣味が豊富に用いられた、一筋縄ではいかない見事な本格ミステリーだったため、同じ牧場智久シリーズとして期待がかかる。

 

また、僕は暗号ミステリーというものにそれほど馴染みがない。読んだのは乱歩の「二銭銅貨」と島田荘司の「ギリシャの犬」くらいだろうか?暗号ミステリーという大きな山のふもとにいながら、その「到達点」へといきなり登ってしまっていいものなのだろうか……。

 

まあ、読むんですけど。

 

〇読みました

読み始めた。相変わらず均整な、読みやすい文章である。

 

……あれ?

 

智久くん、大きくなってる!?

 

囲碁』『将棋』では「天才『小学生』囲碁棋士」だった探偵役・牧場智久だが、シリーズを跨いだせいか、いつのまにか高校生になっていたので驚いた。しかも若くしてプロとして大成し、本因坊にまで上り詰めているという。よくわからないけどすごい。

 

さらに、彼女の剣道少女でミステリーマニアの武藤類子や、彼女の同級生のミステリ研の面々も個性が際立っておりとても良い。特に類子は本作でかなり重要な役割を果たしている。一方、須藤順一郎や牧場典子の出番は完全になくなっていた。シリーズの順番通りに読まなかったのが少々悔やまれる。

 

牧場智久シリーズでは智久をはじめ、多数の天才が登場する。しかし、彼らに「現実的な知性」を感じられるところが、竹本作品の魅力の一つだと僕は思う。「ああ、実際に頭のいい人ってこういう話し方するよな」という感じだったり、周囲に持ち上げられた時の謙遜の仕方だったり、キャラクターがとにかくリアルで嫌みがない。これは竹本氏が実際にそのような人たちと多く接してきた経験から生まれるものなのだろう。

 

竹本氏の経験が大きく反映されている部分としてはもう一つ、ペダンティックに展開されるゲーム趣味の数々が挙げられる。「三部作」の囲碁、将棋、トランプをはじめ、牧場智久が登場するシリーズでは知的ゲームがよく題材とされ、そこに隠された謎が殺人事件の謎と絡み合い、互いに紐解かれていく。

 

もちろん、本作でも連珠(公式ルールに則る、いわゆる五目並べ)をはじめ、多数のゲーム趣味が取り入れられ、新たな謎を生み出している。本作は特に、殺人事件の謎とゲームの謎が繋がるまで時間がかかる点において、『将棋殺人事件』との相似を感じた。

また、タイトルにもある黒岩涙香、暗号ミステリー、いろは歌に関する「講義」も多く展開される。これだけ盛りだくさんな内容ながら、読んでいて全く退屈しないのもすごい。

 

実際、僕は黒岩涙香についての知識はあるにはあったが、三原祥子(類子の友人)と同じ程度のものであった。「無惨」という作品で、日本ではじめて探偵小説と呼べるものを書いた……というくらいだ。涙香研究家の麻生が「それを知っていただけで大感激」と言っていることから、涙香の一般的な知名度の低さが伺える。

 

しかし実態を知ってみると、これほどおもしろい人物もなかなかいないのではないだろうか。その武芸百般ならぬ「遊芸百般」っぷりを知れただけでも、本作を読んだ価値があった。竹本氏がテーマにしたのもうなずける。物語は黒岩涙香と暗号ミステリーの話からはじまり、連珠の謎、さらにいろは歌の謎へと次々と連結されていく。その様は、本格ミステリーの導入として圧巻だ。

 

さらに、物語は涙香が残したいろは歌の暗号を中心に進んでいく。その暗号はもちろん解かれることになるのだが……未読の方はぜひとも手に取り、その目で確かめていただきたい。既にさんざん言われているが、傑作であることを保証できる作品である。

 

〇泣きました

そして驚いたのがこの本を閉じた時、僕が思わず涙を流してしまったことである。

ミステリーに限らず、素晴らしい小説を読んだ後には涙が出そうになることはよくあったが、本当にグスグスと泣いたのは生まれて初めてだった。作品そのものは決して「泣ける話」「泣けるミステリー」ではない。読みながら泣いたわけではないのだ。純粋に、暗号や連珠をとことん突き詰めた結果生まれたその美しさに、作家として、本格ミステリー作家としての竹本健治の姿勢に心を奪われ、震わされたのだと思う。

 

特にいろは歌(ひらがなを一文字ずつ、全て用いた詩歌)については、次々に登場する詩歌としての芸術性、言葉遊びとしての面白さ、無限のバリエーションからみられる日本語の可能性にすっかり魅せられてしまった。つまり、自分でも作ってみたいと思ってしまったのである。今までは竹本氏がTwitter(@takemootoo)で発信しているものを「へぇーすげえなぁ」という程度にしか見ていなかったのに……。完全に竹本氏の掌の上ではないか。まあ、解説の恩田陸氏も同じことを書かれていたので、この本はそういう作品なのだろう。

 

〇書きました

そんな感じで潔く踊らされた結果、一時間半ほどかけてできた作品がこちらである。

 

天地を揺らす ピック先

会えぬ間ホーム 屋根ぞ割れ

木の葉現せし 世も更けり

涙に香る 迷路へと

 

てんちをゆらす ひっくさき

あえぬまほーむ やねそわれ

このはうつせし よもふけり

なみたにかおる めいろへと

 

読んでわかる通り、完っ全に『涙香迷宮』を意識した作品だ。(7+5)×4=48字から成るいろはには、通常のあ~んの46字に旧字体の「ゐ・ゑ」を含める旧仮名いろはと、旧字の代わりに「っ・ー」を含めた口語新仮名いろはがあるというが、この歌を作るにあたっては後者を選択した。旧仮名は古文の文法知識が必要となるためハードルがやや高かったのである。

 

だが新仮名いろはも実に難しく、そしておもしろかった。深夜に一時間半夢中で考え続けてなんとか編み出した作品だが、竹本氏でも最初の作品には三時間かかったというので、これでもかなり即興の部類だろう。そのぶん、精錬されていないのはご了承を。

 

詩歌のセンスはないが、いろは作りは本当に楽しかった。完成させられたことに感激して昂ってしまい、しばらく寝付けなかったくらいだ。

竹本氏はIRH48・kiz48なるユニット(?)を組み、積極的に活動されているようなので、また機会があれば詠んでみたいと思っている。

 

 

最後に、『涙香迷宮』は「究極」の名にふさわしい、希少な作品であることをここに記させていただこう。未読の方はぜひ。

 

さあて、次は買っておいてずっと放置してた『トランプ殺人事件』を読むことにしよう。(竹本先生ごめんなさい)

東京に来たので有名サウナに泊まってみた・後編:錦糸町ニューウィング

こんにちは。たでゑだよ。

 

前回の記事では恵比寿の℃(ドシー)について書いたが、今回もサウナの話である。このブログ、本格ミステリーの話で始まったはずなのに二回連続でサウナと流れる汗について語ってしまうこととなる。それによって、もともといない読者が離れてしまう?知ったことか。「嫌なら見るな」といういつかのフ〇テレビ精神でいきたいと思う。ごめんなさい調子に乗りました。せっかく書いているのでいろんな人が読んでくださるとうれしいです。

 

(たでゑ は もじ の うちけし を おぼえた!)

 

今回は東京の有名サウナ紀行の後編である。

前回の記事はこちら↓

 

poreanessblog.hateblo.jp

 

(たでゑ は かこきじ の はりつけ を おぼえた!)

 

恵比寿のドシーは、クオリティは非常に高いが構造が特殊であり、人を選ぶ施設であった。対して、今回泊まったのは東京で最もサウナ―の支持を得ていると言っても過言ではない超有名施設である。

 

それが錦糸町ニューウィングだ。

公式サイトはこちら↓

 

new-wing.com

 

(たでゑ は URL の うめこみ を おぼえた!)

 

埋め込みにも書いてあるように、男性専用の施設であるので、女性のみなさん悪しからず。札幌のニコーリフレ然り、こういう施設は案外多いのである。逆に若い女性をターゲットにした女性専用のサウナ施設とかできればいいのにとも思う。

(後から調べてみると、サウナ女性解放デーなるイベントがあるとかないとか……。人権運動みたいな名前だなぁ)

 

まあ何はともあれ実はこのブログの筆者は男性なので行ってきた。

もしも女性だったらサウナに入れないショックで、隅田川に身を投げていたところだろう。男性でよかった。

隅田川(すみだがわ)は、東京都北区新岩淵水門荒川から分岐し、東京湾に注ぐ全長23.5kmの一級河川である。途中で新河岸川石神井川神田川日本橋川などの支流河川と合流する。古くは墨田川、角田川とも書いた。

隅田川 - Wikipedia

 

(たでゑ は いんよう を おぼえた!)

 

カプセル付きの宿泊は4,200円。ただ、旅行サイトなどを見ると当日の直前割などで安く泊まれるとの情報を得ていたので、あえて予約はしておかなかったのだが……当日の朝になって見てもなぜかプランが見当たらない。仕方なく電話をして、通常料金で申し込んだ。まあ4,200円なら妥当な値段だろう。

そして到着。

 

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JR錦糸町駅から徒歩3分。位置は非常にわかりやすい(Googleマップも順調に機能してくれた)。

 

フロントに入ってまず目に飛び込んできたのが「カプセル満室」の文字。危なかった……!電話した朝の時点では空きがあったのに、夜になったらこれである。東京って人が多すぎて怖い。昼に行った渋谷もディズニーランドかよってくらい混んでたし。

 

ちなみに、満室でも仮眠室などで宿泊自体は可能らしい。

 

この施設の特徴は、なんといってもリラックスのためのガジェットがそろい踏みしているところにある。先述のカプセルや休憩所はもちろん、冷たい生ビールが飲めるオリジナルの食堂、パソコンが使えるインターネット作業スペース、マッサージ、3000冊以上をそろえる漫画・雑誌コーナー、さらには無料でファミコンスーファミが遊べるコーナーまで。大人の男を極限までダラダラさせるためのすべてが揃っているのである。

 

しかし僕は酒は弱いし、マッサージもそんなに好きじゃないし、ご飯は食べてきたし、夜も遅いから漫画もそんなに読めない。なので真っ先に惹きつけられたのはゲームコーナーだった。

 

ファミコンがある!カセットもたくさんある!おっ!「元祖西遊記スーパーモンキー大冒険」だ!「MOTHER」もある!これは寝るのを忘れて遊んでしまうかも!

 

方向キーが壊れていて動かなかった。

 

さあサウナに入ろう。

※隣にあったスーファミはちゃんと使えました。

 

脱衣所にロッカーはなく、あるのは館内着を入れる棚だけ。バスタオル、フェイスタオル、アメニティなどはすべて用意されているので、館内着に着替えさえすればほぼ手ぶらでOKという、なんともステキなシステムなのである。

 

そして、洗面所や浴場内のアメニティの充実っぷりがすごい。洗面所にはヘアトニックや化粧水もはじめ、髭剃り後のローションなどあらゆる男性化粧品が大きな棚に所狭しと並べられている。浴場内はシャンプーだけでも5~6種類が用意されており、好きな種類を持って行って使うことができる。歯ブラシ、髭剃り、シェービングフォームなどもバッチリである。僕は「くまモンシャンプー すっきりみかんの香り」をチョイス。

 

また、サウナ施設と聞いていたためあまり期待はしていなかったのだが、スパもかなり立派なものだった。特に主浴槽は北海道長万部町の二股温泉の湧出地にある鉱石を通すことでカルシウム分を豊富に含ませたお湯であり、やや熱めの温度も絶妙でとても良かった。こんなところで北海道、しかも長万部の名前をみることになるとは。まだ本物の二股温泉も入ったことないのに。

 

まずはサラっと交互浴を二回キメる。ここの水風呂は普通の水風呂と身にプールがある。特徴的なのはミニプールの方。プールと言うだけあり、通常の水風呂の4倍くらいの広さを持つ特別仕様だ。通常の水風呂のキャパが2~3人なのに対し、こちらは10人は余裕で入れるらしい。水温も水風呂が20℃、ミニプールが15℃と、痒い所に手が届く温度設定である。

 

さて、主役のサウナだがこちらも二種類。メインは高温のボナサウナ。ボナサウナとはストーブがベンチの中に入っているタイプのものを指す。温度は90度台だが体感ではかなり熱く感じる、正統派の骨太サウナである。さらに、詳しいことはわからないが身体への負担も少ないらしい。大したものである。

 

(画像は公式サイトより)

 

サウナマットは敷かれているのだが、室外にはさらに小さなものも用意されており、自由に使っていい。マットを二重に敷くことで、ドシーで問題だった足裏の火傷対策にもなるし、汗で全体をぬらすことなく清潔を保てるのである。このような行き届いた気遣いがこの施設を人気たらしめている最大の理由だろう。

さらに、僕は体験できなかったが床に水を撒く「床ロウリュ」なる催しもあるらしい。打ち水なのに熱くなるとはこれ如何に。

 

もう一つは低温サウナのテルマーレ。

 

(画像は公式サイトより)

 

低温と言えどもセルフロウリュがあり、温度は高め。マイルドながらも力のあるサウナなので慣れていない人や長時間入りたい人におすすめである(個人的には少し物足りなかった)。

 

僕は主にボナサウナに入ったが、熱さのわりに10分近くまで入ってしまった。あ、身体に優しいってこういうことか。さらにロウリュがあるって……実力が底知れないサウナである。

 

死ぬほど熱くなったところでミニプールへ。

ここで僕は生まれて初めての体験をするのである。

それは、水風呂に潜るという体験だ。

 

(たでゑ は アンダーライン を おぼえた!)

 

なんとここのミニプール、プールだけあって汗をきちんと流せば頭まで浸かることが公式に許可されているのである。もちろん、通常では水風呂に顔や頭をつけるのは御法度だ。マナーを何よりも遵守する僕は、ろくに汗も流さずにそんなことをするオッサンたちをゴミのように横目に見てきたが、ついにそれを自分で行ってしまおうというのである。ご、合法だからね!一応やっておかないとね!!

 

きちんとシャワーを全身に浴びてからいざダイブ。深夜0時ということもあって空いており、後ろめたさはない。ざぶん。

 

……。

 

あの、多くは語らないんですけど、というよりあまりの快感に語彙力が吹っ飛んだんですけど、マジのマジで最高でした。

サウナ好きな人、絶対行って……。錦糸町に用がなくても行って……。

ボナサウナ10分からの水プール全身ダイブして……。

 

(たでゑ は もじサイズ 150% アップ を おぼえた!)

 

結局、4往復した。いつもは3往復なのに。

 

そしてあがって寝ました。最高過ぎて意識がどっか行っちゃって、歯磨くの忘れたことに翌昼まで気づかなかった。

 

そんなわけで錦糸町ニューウィング、噂に違わずサウナ、施設ともに最高だった。

今度東京行くときは一日ここで使う日を作ろう。

この言葉が大袈裟に聞こえる人は、ぜひ一度体験してみればいいと思う。僕の気持ちがわかるはずである。

 

例によってサウナタイムの記事を置いておく。

人気施設だけあって、特集も数多く組まれている。

 

saunatime.jp

 

ちなみに、今回の記事ははじめてパソコンで編集してみた。

いつも見づらいブログで申し訳ないので、がんばって練習していきます。

暖かい目で見守ってくれると幸いです。

 

次回はサウナ以外のことについて書くつもりである。

 

(たでゑ は もじ の いろづけ を おぼえた!)

(たでゑ は もじサイズ 200% アップ を おぼえた!)

東京に来たので有名サウナに泊まってみた・前編:恵比寿「℃(ドシー)」

およそ1年ぶりに東京へ来た。

メインの目的はJAGMOによる、ゲーム「UNDERTALE」のオーケストラコンサートだが、都合のいいことにたくさんのイベントが重なり、充実した時間を過ごすことができた。


1日目はWebライターであるおおきち氏主催、今やおもしろ系Webサイトの代表格であるオモコロ共催のトークイベント、「おおきちナイト」にお邪魔した。


原宿氏、マンスーン氏、永田氏ほかオモコロレギュラーメンバー、そしてデイリーポータルZの斎藤充博氏が集結し、いつものWeb記事に負けず劣らずの尖ったトーク内容で会場は終始爆笑の渦。僕はなんと最後の抽選に当選し、セブ山氏とおおきち氏にサイン色紙をいただいた。これからますますネットの世界にのめり込んでいくきっかけとなりそうなイベントだった。


UNDERTALEやオモコロの話はまた後日にするとして、今回の本題。恵比寿のサウナ施設兼カプセルホテル「℃(ドシー)」に泊まった感想である。


https://do-c.jp/

↑こちらが公式サイト。「サウナといえばオッサンが仕事帰りによるもの」という固定観念(半分は正しいけど)をぶち壊すような、スタイリッシュでモダンなサウナ施設らしい。HPもおしゃれ〜!


ここは2017年の12月にオープンしたばかりの施設(今春、五反田に2号店ができるらしい)で、ある独特な形式からサウナーの間で話題になっていた。


その形式とは、「ウォームピラー」という水風呂に代わるクールダウンである。公式サイトによれば頭上から降り注ぐ「体にまとわりつくように水流を制御した水の柱」によって火照った身体を冷やすらしい。なんかカッコイイ。

カッコ悪くてもいいなら、「打たせ湯の水バージョン」であると解釈すれば分かりやすいだろう。カッコ悪いから僕は使わないけど。


また、通常の水風呂は店側が設定した温度でしか入れないのに対し、この施設のウォームピラーは好みにやって水温が選べるのも特徴だ。30℃、25℃、20℃、15℃、季節によって変わる常温の5種類。


さらに、サウナも本格的なフィンランドサウナにこだわっているらしく、熱したサウナストーンにアロマ水をかけて体感温度を上げる「ロウリュ」がセルフで行えるという。東京ではけっこうあるらしいが、北海道などの地方ではあまり見られるものではない。


いちサウナーとしてこれは体験しなくてはならぬ!宿泊場所も決まっていなかったのでそこに泊まることに。サイトには一泊4,900円〜とあるが、ネットで予約したら3900円で泊まれた。

ちなみに、サウナは時間加算制で、1時間1,000円〜、さらにsauna &sleepを謳っているように「仮眠」というサービスもあるのが独特だ。(1時間1,500円〜)


というわけで行ってきた。


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恵比寿駅から徒歩1分。だが、Googleマップがなぜか言うことを聞いてくれず、10分ほどさまよってようやく見つけた。これから向かうのは最先端のサウナだというのに、田舎もん丸出しだ。


さて、田舎もんらしく元気に「予約してたたでゑだべさ!(誤用)」とチェックイン。寝室フロアロッカーの鍵をもらう。正統派なカプセルホテルは初めてだけど、設備的にはまあまあではないだろうか。施設の壁は木をベースにしていて清潔感がある。


しかし、サウナ利用時のシステムがなんとも複雑だった。脱衣所のロッカーに鍵がかかっていて使えないのである。これは宿泊者は全部の荷物を別階のロッカーに入れてから来なくてはダメなのか…?と思い、そうしたのだが、後から考えるとサウナに行く前には寝室フロアロッカーとは別に、サウナ用のロッカーの鍵を受け取らなくてはならなかったらしい。


シャワーで身体を流し、いざサウナへ。


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(画像は公式サイトより)


まず目に入ったのは中心に陣取る大量のサウナストーン。ストーン系のサウナは多く見てきたがこれほどの量を、しかも中心に配置するというのは初めてみた。手前にはロウリュ用のミント水。サウナ全体に漂う爽やかな香りはこのせいか。


温度は95℃と高めだが、湿度のおかげで体感はそれより高い。入って2分もしたら汗が止まらなくなる。サウナマットは小さめのを自分で使う分持ってくるスタイルなので、2枚持ってきて足元にも敷いたほうが足裏が熱くない。


そして肝心のウォームピラー。これが新感覚でなかなかに良かった。


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(画像は公式サイトより)


通常、水風呂では身体全体がくまなく冷やされるわけだが、ウォームピラーで水がかかるのは主に首筋から腰回りにかけてである。それでは物足りないと思われるかもしれないが、ずっと水を浴びていると冷やされた血液が循環して身体中を巡って行く感じ。さらに体表が冷やされるところと冷やされないところの差が出ることで、今までにない「ととのい」を味わうことができるのである。好みは分かれるかもしれないが、この正統派本格サウナと特殊クールダウンの組み合わせ、実に悪くない。


なんだか孤独のグルメみたいになってきたので、ウォームピラーから離脱。休憩場所を探すが……


休憩場所がない。

さらに、水を飲めるところもない。


……乾けと???

サウナの壁にはサウナ⇨クールダウン⇨休憩(こまめに水分補給を!)って書いてあるのに、肝心の休憩場所や水飲み場がないのだ。

仕方ないのでウォームピラーにそのまま座る。空いてたからいいけど、混んでたらこんなことできないのでは?みんな立ったまま休憩するんだろうか。僕が知らないだけでそれが恵比寿のスタンダード……?これが最先端なんだべか……?おでみてぇないながもんにはわがらねぇだよ……。


水飲み場も当然のごとくあると思っていたので、飲み物は持参していない。仕方がないのでシャワーの水で少しだけ給水。うんうん、東京の水道水、案外悪くないじゃぁないか。


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でもこれ飲み物持ってきた場合にもわざわざ脱衣所に行って、ロッカーから取り出して飲んで、またしまってサウナへいくんだろうか?めんどくさくない?サウナの内側だけでなくて、外側にももう少し気を配って欲しいなぁというのが正直な感想。


(もし休憩場所や水飲み場が実はあるんだよって知っている人がいたら教えてくださいね)


まあともあれサウナ自体は素晴らしく、5〜6分×3往復。他のお客さんがほとんどいなかったため集中できた。みんなけっこうプライベートシャワーだけで済ましているようだった。


カプセル施設もなかなか悪くない。その晩はぐっすり眠れて翌日の調子も非常に良かった。常温のウォームピラーを浴び忘れたのが心残りだ。


というわけで、ドシー恵比寿は

「サウナは本格派だったけど、設備をもうちょい整えてほしい」

という感じでまとめとする。中級〜上級サウナーは間違いなく行くべき施設だ。


こうして、また新たなサウナを知ったたでゑは、ゲームセンターCX博物館へ行くために渋谷へと向かうのであった……。


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なお、このブログの感想はあくまで個人のものですので、SAUNA TIMEさんのページも置いておきます。このサイト本当に良い。

https://saunatime.jp/saunas/93/?page=1&query=恵比寿


☆おまけ

サウナに入る松重豊さん。カッコいいですね。


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次回は超大人気施設、錦糸町ニューウィング  について書くよ!


ブログ開設のお知らせとお詫び:小栗虫太郎『黒死館殺人事件』

ブログを作ってみた。

SNSが急速に発展したこの時代になぜわざわざブログなのか。文字数が足らなくなったからである。

今まではTwitterでダラダラと好きな物事について語っていたのだが、書こうと思えばいくらでも書けてしまう文章に140字という枷はなかなか大きい。要するにめんどくさくなったのだ。普通の日常ツイートの後に小難しい長文を投稿するってのもなんかこっぱずかしい。

それでも僕は好きなものについて語りたいのだ。なぜなら同じ話ができる友達がびっくりするほどいないから。寂しい。

それと、こういうことを書くことそのものの価値を突き詰めてみたいとも思っている。自分も書いていて楽しいし、誰かもそれを見て楽しめるものができたら申し分ないだろう。

なんて、堅苦しい前置きはこの程度にしてさっさと本題に入りたいと思う。イェーイ。
初回は大好きな本格ミステリーに関する話である。

※「書くことそのものの価値」についてはこちらのnote記事に影響を受けたところがある。あとはヨッピー『明日クビになっても大丈夫!』の「生産する趣味」の概念とか。

明日クビになっても大丈夫! (幻冬舎単行本)

明日クビになっても大丈夫! (幻冬舎単行本)


※いかんせん初めての試みなので、形式がおかしかったり読みづらいところがあるかもしれないが、温かい目で見守ってください。

さて、今回の本題は作品の紹介、そして「お詫び」である。

僕はこの1ヶ月ほど、ある一冊の本を読んでいた。そして初めて本格ミステリー作品を読むことを挫折してしまったのだ。およそ400ページの長編を、たった150ページしか読んでいないにもかかわらず、である。少なくとも大好きなミステリー作品において、このようなことはなかった。どんなに難読でも、どんなに時間がかかっても、読むこと自体を放棄するのは生まれて初めてだった。

それが、小栗虫太郎の『黒死館殺人事件』である。

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この本は日本ミステリー史における「三大奇書」のひとつとされており、複雑極まる内容と著しい衒学趣味(ペダントリー)による難読っぷりが有名な作品だ。1932年に、雑誌「新青年」で連載されたもので、非職業探偵である法水麟太郎が、天才学者?であった故・降矢木算哲の残した通称・黒死館で起こる連続殺人事件を解決しようとするという、本格としては王道な内容である。


詳しくはこちらにまとめられているので、興味のある人は見てみるといいだろう。

https://matome.naver.jp/odai/2142163715223756101


ちなみに、「三大奇書」の残りふたつは夢野久作ドグラ・マグラ』(1935)と中井英夫『虚無への供物』(1964)である。『ドグマグ』は幻想性とメタ的ループ構造、『虚無』は最終的に全ての推理が意味をなさなくなる“アンチミステリー”として知られている。突き抜けた読みづらさを持つこの2作だが、僕は高校2年の時、それぞれ2ヶ月くらいかけてなんとか読破したのだ。本格ミステリー読者として自信がついた僕は、残るひとつの牙城である『黒死館殺人事件』を青空文庫で覗いてみたのだ。その冒頭はこんな感じだった。



 セントアレキセイ寺院の殺人事件に法水のりみずが解決を公表しなかったので、そろそろ迷宮入りのうわさが立ちはじめた十日目のこと、その日から捜査関係の主脳部は、ラザレフ殺害者の追求を放棄しなければならなくなった。と云うのは、四百年の昔から纏綿てんめんとしていて、臼杵耶蘇会神学林うすきジェスイットセミナリオ以来の神聖家族と云われる降矢木ふりやぎの館に、突如真黒い風みたいな毒殺者の彷徨ほうこうが始まったからであった。その、通称黒死館と呼ばれる降矢木の館には、いつか必ずこういう不思議な恐怖が起らずにはいまいと噂されていた。勿論そういう臆測を生むについては、ボスフォラス以東にただ一つしかないと云われる降矢木家の建物が、明らかに重大な理由の一つとなっているのだった。その豪壮を極めたケルトルネサンス式の城館シャトウを見慣れた今日でさえも、尖塔や櫓楼の量線からくる奇異ふしぎな感覚――まるでマッケイの古めかしい地理本の插画でも見るような感じは、いつになっても変らないのである。……(青空文庫より。http://www.aozora.gr.jp/cards/000125/files/1317_23268.html



……………。


何言ってんの?

高校生の僕はそう思った。

そしてそっとページを閉じ、京極夏彦姑獲鳥の夏』を読み始めた。おもしろかった。


あれから5年。その『姑獲鳥の夏』で卒論を書き終えた僕は、2017年刊行の『【「新青年」版】黒死館殺人事件』を手にしていた。


本格ミステリーをテーマに卒論を書いたこともあり、大学在籍期間で多くの作品に触れることができた。高校2年の時と今とでは、経験値が違う。笠井潔の作品とか難しかったけど意外とすんなり読めたし。


しかも、この【「新青年」版】の目玉は、1000を超える膨大な語注だ。話の本筋とは関係ない専門用語の一つ一つにも、詳細な解説が付けられているのである。少なくともこれで「何を言っているのかぜんぜんわからん」状態は抜け出せるだろう。


時は来た!黒死館が僕を呼んでいる!いざ挑戦!


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おお、すごい。本当に細かな語注が付けられている…!内容は難しいけど、なんとなく話の筋はわかる。ただ、解説も難解なのでいちいち全部読んでいたらきりが無い。適度に読み飛ばしていく。


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……ん?ちょっとまって。


1ページあたりの注釈が多すぎて、解説が追いついていない!?数えてみると、このページでは16個の注釈が付けられているのに対し、下段の解説は7つ。そのせいで注釈と解説の位置にズレが生じており、一つの解説を見るためにページを1〜2ページめくらなくてはいけないようになってしまっている。なんだこれ。


まあさっきも言った通り、注釈の全てを理解しなくても物語進行に支障はない。あまり気にせず読んで……、読んで………???


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どういう状況??

細かく説明されているはずなのに、全く頭に入ってこない。普通、情景描写って細かければ細かいほどわかりやすいものでは……?


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突然の図解。

しかも、事件現場の平面図とかじゃなくて宇宙構造の話。熊城捜査局長が「ああまるで狂人になるような話だ」ってフケをボリボリ落としながら言ってるけど、お前それ今に始まったことじゃないからな。


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「所で読者諸君は法水の言動が意表を超絶してる点に気附かれるであろう。」

ごめん、全くわからなかった。理解力なくてごめん。


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降矢木算哲の蔵書、全部に語注ついてる!!

しかも一冊も知らない。


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蔵書リストは巻末にまとまっているようだ。注をつけた山口雄也氏の苦労が伺える。そりゃあ70個の解説をひとつひとつぶち込んだら本が破綻する。注釈に破綻させられる本って何?


とまあ、こんな感じで本筋とは全く別のところで僕の脳のキャパシティは限界を迎えつつあったわけだが、極め付けはこちらである。


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注釈に注釈がついている。こんなの初めて見た。


ちょっと待て。これによって三重のメタ構造(本文⇨注釈⇨注釈の注釈)が発生しているではないか。奇書たる所以のペダントリーを解き明かそうとした結果、その奇書っぷりがさらに強調されてしまっているという逆転現象が起こっている……?


僕は本を閉じた。そして図書館に返却した。

所詮ミステリー好きといってもペーペーである。この難攻不落・史上最大の奇書はまだ早かったようだ。

しかし、まだ終わったわけではない。いつか自分でこの本を購入し、どんなに時間をかけても読破するという決意を固めたのであった。


なんだかツッコミどころばかりを書いてしまったような気がするが、この膨大な注釈を付けた山口雄也氏の偉業には心から感服した。それに、「黒死館」の奇書としての本質を、断片的にでも味わうことができたのはとても意義のあることだった。他のミステリーではなかなか見られない徹底した世界観づくりは、挿絵と合わせて不気味な世界に読者を引き込んでくれる。定価は6800円+税とお高めだが、内容の充実っぷりを考えるとむしろ安いくらいだろう。


というわけで、リクエストしたら1ヶ月で入荷してくださった図書館の皆様、結局読破できなくて大変申し訳ありませんでした。いつか他の誰かが読んでくれますように……。


なお、こちらの『【「新青年」版】黒死館殺人事件』は今年の本格ミステリ大賞の評論・研究部門の候補作になっているそうな。ぜひとも受賞して、報われていただきたいものである。


【「新青年」版】黒死館殺人事件

【「新青年」版】黒死館殺人事件