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【ちょっぴりネタバレ】竹本健治『トランプ殺人事件』【書評】

ごぶさたです。長文を書く能力が失われつつあり、魔女宅終盤のキキみたいな精神状態なのでライトに。

 

今回読んだのは『トランプ殺人事件』。二回連続竹本健治である。

 

トランプ殺人事件 (講談社文庫)

トランプ殺人事件 (講談社文庫)

 

 


前回『涙香迷宮』に衝撃を受け、真似していろは歌もちまちま作りながら本書を読むという、完全に(にわか)竹本ファンの生活を送っていた。これもその勢いで読んだものである。

大筋は、「密室から消失した人物が、全く別の場所で死体となって発見されたという謎を解く」というもの。『囲碁殺人事件』『将棋殺人事件』に続く「ゲーム三部作」の三作目であると同時に、『将棋殺人事件』、本書『狂い壁 狂い窓』の「狂気三部作」の中堅をなす一冊だという。

当然、『囲碁』『将棋』と同じく智久、典子、須藤の三人がメインで登場している。『涙香迷宮』では高校生だった智久くんも、この時は13歳なので安心だ(?)。

しかし、本作の実質的な主人公は『将棋』でも登場した精神科医・天野不巳彦である。冒頭で謎の注意書き、謎のメモ書き、謎の会話が全くの説明無しに突き付けられるという構成には、彼の存在が大きく関わっている。この部分から読者は「狂気」の一端を、すぐさま感じ取るだろう。そしてその狂気は読み進めるごとに拡大していき、蠱惑的な幻惑世界を体感することになる。

ただ、この作品「狂気」といってもナンセンスや不条理に由来するものではない。あくまで論理的に、合理的に人間の精神を捉えようとすることによって、かえって我々の精神の不合理さ、理解不能性が露わになっていくというものだ。精神病患者が異常なのではなく、我々健常者こそが異常なのではないか……そんな不安定さこそが、この作品に蔓延る「狂気」なのである。

そんな雰囲気だけではなく、本格ミステリーとしても一級品だ。にもかかわらず、個人的には変格よりのテイストを強く感じた。奇書/アンチミステリーとして名を馳せた『匣の中の失落』(こちらは未読、勉強不足である)、そして遊び心満載の傑作本格である『涙香迷宮』の中間に位置する読み味なのかなと思った。特に、暗号が謎の主体となっているあたりは『涙香迷宮』への布石を感じることができるだろう。

中盤に登場するトランプの用語集、そしてゲームの一つであるコントラクト・ブリッジの説明は読むだけでも相当骨が折れた。理解力の無さゆえ、結局ルールもなんとなくしか把握できなかった。しかし、これから読む方のために言っておこう。この作品はコントラクト・ブリッジのルールを完全に理解しなくても十二分に楽しめる。「トランプにこんなゲームがあるのか」と驚きながら、精神医学と反精神病理学に惑わされつつ、端正かつ大胆な本格ミステリーを思い切り楽しむのが正解だろう。

そして、とある作中人物よろしく、この記事にも「切り札」を用意している。この作品の一番美味しい部分については一切触れていないということだ(それがこのブログがミステリー作品を紹介するにあたっての通常スタンスではあるのだが)。そこはぜひ、実際に読んで確かめていただきたいと思う。その前に『囲碁』と『将棋』も。どちらも最高なので。

ところで、僕が一番最初に読んだ竹本作品は、『有栖川有栖綾辻行人のミステリ・ジョッキー』で取り上げられた、『狂い壁 狂い窓』のとある一編だった。何巻だったか、どの作品だったかは思い出せないが…。

『狂い壁』も復刊しているし、『ミステリ・ジョッキー』も非常に好きだったので、そのうち揃えてまた紹介してみたいと思う。

 

 

狂い壁 狂い窓 (講談社文庫)

狂い壁 狂い窓 (講談社文庫)

 

 

綾辻行人と有栖川有栖のミステリ・ジョッキー(1)

綾辻行人と有栖川有栖のミステリ・ジョッキー(1)

 

 


次に読むのは島田荘司暗闇坂の人喰いの木』か、『名探偵傑作短編集 法月綸太郎編』か。