ぽりあねすぶろぐ

ポリアネスと夜ごパン(仮)

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石黒正数『それでも町は廻っている』と僕

それ町」と呼ばれる漫画に出会ったのは、はっきりとは覚えていないが、今から約2年ほど前のことだったと思う。

 

その時の僕はまだ大学生で、ミステリーをだらだらと読み、ゲームをだらだらと消化するという、今とあまり変わらない生活を送っていた気がする。

 

大学生になってから、漫画というものをめっきり読まなくなってしまった僕がこの漫画に手を出した理由は、「なんとなく」であった。「なんとなく」名前を知っており、「なんとなく」コメディチックなものが読みたかったから。

 

たしかに、「それ町」はコメディである。しかし、読み進めていくうちにそれだけにはとどまらないことをどんどん感じさせられた。コメディな話と見せかけて実はホラーだったり、後味の悪い話だったり、けっこう本格的にミステリーをやっていたり、かと思えばずっこけギャグに徹していたり、思いもよらぬ仕掛けが隠されていたり。

 

そのような、ひとつのあり方にとらわれないスタイルは1〜16巻で共通なのだが、僕がそれを最も顕著に感じたのは2巻である。というより、2巻を読んだ時点で単行本を買い揃えることを決めたのだ。

 

まず、シリーズ全体の表題作である「それでも町は廻っている(前編・後編)」。これに感銘を受けたのはもちろんだが、この話の裏テーマは「あとがき」に書かれていることを忘れてはならない。

 

(……)歩鳥がいなくても町は営みを続けます。

あえて淡白な表現になっている歩鳥がいない商店街、また天国の役人や案内人、ヨハネ君たちも死んで天国に来たのだという事実を想像で補っていただけると、未熟ゆえに描き切れなかったテーマに一歩近づくのではないかと。(……)

 

それでも町は廻っている」。この漫画は、必ずしも歩鳥を主人公とした物語というだけではない。ここで本当に描かれているものは、「廻り続ける町」なのだろう。その結果として、住人たちもまた廻る。町と人が廻り続ける限り、この漫画のテーマもまた、一点に留まることはない。

 

もう一つ、2巻には感銘を受けた話が「ナイトウォーカー」である。栄養ドリンクで眠れなくなった歩鳥の弟・タケルが、姉とともに生まれて初めて深夜の町を歩くというだけの話だが、小学生目線の表現がとにかく卓越している。

 

0時を日の境目と初めて知ったのはいつのことだったか。たまの深夜の散歩(といっても21時くらいだった気がするが)の時になぜあんなにワクワクしたのか。その反面、明記はされていないが、ある種の罪悪感すら読み取ることができる。

 

漫画の中の「町」が、自分の暮らしている、もしくは暮らした「町」に侵食し、リンクするような感覚。現実と作品の境目が曖昧になるという点においては、アンチミステリ的だと言えなくもないかもしれない。それだけではなく、作者の石黒正数氏は歩鳥と同じで、本当にミステリーが好きなんだとわかるシーンや構成がいくつも存在する。とはいえ、仮にその要素がなくとも、この漫画が名作であることは変わらないと僕は思う。だが、「それ町」の話を一本読むごとに、質の高い本格ミステリー短編を一本読み終えたような感覚を得るのは偶然ではないだろう。

 

その他にも、「それでも〜前後編」の後日談であるちょっとだけほろ苦くも温かいコメディ「パジャマの天使」。2巻の時点では最も異色作といえるかもしれない「穴」(この話のオチはぜひ自身の目で確かめていただきたい)など粒ぞろいで、ガッチリと心を掴まれてしまったのであった。

 

それからゆっくりと時間をかけて、最終巻である16巻を今日、読み終えた。ここで描かれていたのは、紛れもなくひとつの町の日常であった。本当の意味で特別な出来事などどこにもない。それでも、涙が止まらなかったし、それでも町は廻っていたのだ。

 

 

☆おまけ 厳選!個人的ベストエピソード☆

・1巻  第5話『愛の逃避行』

・5巻  第39話『夢現小説』

・6巻  第47話 『ヒーローショー』

・9巻  第68話 『嵐山ジョセフィーヌ様』

・9巻  第71話 『歩く鳥』

・11巻  第84話 『夕闇の町』

・12巻  第95話  『ユキコの剣』

・13巻  第104話  『暗黒卓球少女』

・13巻  第105話  『呪いのビデオ』

・15巻  第117話  『虚』

・16巻  第125話  『紺先輩  スペシャル』

・16巻  第127話  『至福の店  フォーエバー』

・16巻  エピローグ  『…それから』

 

…厳選した割に多すぎるな。